導入過程
看護師向けのワークショップを80%以上の看護師が受講する
看護師の関わりを中心した術後鎮痛管理を実現するには、その看護師が十分な 知識・実践的な考え方を共有し、安全に管理を行える状態であることが必要条件です。鎮痛管理に関して各自が違った知識や経験を持ちながらも、働いている施設に応じて統一した痛みの評価と対応ができることが、スムーズな仕事の流れや安全、満足度、達成感に繋がります。術後鎮痛管理システムの導入にあたっては、誤解を避けるために、看護師間で言葉と考え方を統一する必要がありました。導入後も、知識を維持するために、できるだけ全ての看護師が、同じ内容の看護師向けワークショップに参加するよう求めました。そこで気づいたのは、各病棟に80%以上の受講者がいたら、残りの20%は時間とともに知識を共有するようになり、総合的に水準が上がるということです。現在は、ワークショップをYouTubeで公開しています。自由にご覧になってください。今後は、受講後にe-learningで試験(HPで作成中)を受けてもらえるようにするつもりです。実際の講演でもメールでも相談に乗ります。
各病棟のリンク看護師(リーダー程度)を指定
リンクナースは、術後鎮痛管理システムの導入過程において不可欠な存在です。コーディネーターとして、ワークショップの受講状況の把握だけでなく、その施設での鎮痛管理内容を決定し調整するのに一番重要な役割を果たします(実際は、仕事が増えるのは最初だけです)。術後鎮痛管理アルゴリズムの内容(病院で使用される薬剤・慣れた投与方法・ローカルルールなど)を作成するので、一番現場経験のあるリーダー程度の看護師がふさわしいと思います。導入前に管理内容を決定・調整し、導入後に麻酔科・外科とコミュニケーションをとりながら実際に問題を解決する。そして管理内容の微調整、問題症例に関する情報交換などを行います。

仕事としてはそれほど大きな手間ではありません。新しいシステムの導入にあたって、仕事の内容がよくわかる人と一緒にシステムを作成し、皆が納得できる負担のない業務の流れを作ることで、出来上がった時は達成感も生まれます。看護師の関わりを中心にした管理なので、看護師が自ら自分の現場にふさわしく手間がかからない方法のシステムを作る仲間の一員として考えられる楽しさがあります。
リンク看護師と病院にふさわしいアルゴリズム・オーダー内容を決定
ワークショップ受講中、各病棟のリンクナースと一緒に多角的鎮痛管理を基にしたアルゴリズム内容を調整します。アルゴリズムは、それぞれの術後鎮痛管理方法に合わせて4種類(基本・硬膜外麻酔・iv-PCA・持続神経ブロック)あり、多角的鎮痛管理経過の詳細を示す地図またはマニュアルのようなものです。
各病院には、使用する薬剤や慣れた投与方法、ルールなどがあるので、現場の知識と経験があるリンクナースと情報交換し、一番身近で使いやすいアルゴリズムの内容を決定します。ドラフトができたら、他に外科医や薬剤部と相談し、そこで新たに調整した内容を再びリンクナースと一緒に微調整します。管理を円滑にするための作業です。
第三病院のアルゴリズム

河北総合病院のアルゴリズム

それぞれ拡大して違いを見つけてみてください。
アルゴリズムができたら、今度は、看護師が使え、わかる、そして混乱しない指示棒の指示・点滴伝票(点滴処方箋・麻薬伝票など)の編集もリンク看護師・薬剤部・外科医・麻酔科医と一緒に相談しながら行います。慈恵第三病院と河北総合病院で使っているものを参考にするとやりやすいです。基本的には指示棒のオーダー点滴伝票の内容は、術後鎮痛管理アルゴリズムの内容を電子カルテの言葉で指示したもです。最終的には、その指示・点滴伝票を「セット」としてカルテに登録します。
システムを電子カルテに登録するにはIT課の協力も必要
術後鎮痛管理の4つのアルゴリズム(基本・硬膜外麻酔・iv-PCA・持続神経ブロック)の内容を決めたら、それに基づいた指示棒の指示と点滴伝票を電子カルテに登録します。多角的鎮痛管理では日々内容が変わっていくため複雑です。それを「セット」として登録しておけば、外科の先生が術後、簡単に電子カルテで指示や点滴伝票を出すことができます。富士通の電カルでは、7-8回のクリックで6日間のオーダが立てられます。患者に合わせて個別に調整し、変更もできます。
その「セット」登録・術後鎮痛管理表(エクセルチャート)を電子カルテに問題なく登録・運営するには、IT課の協力が必要です。システム導入前に登録された「セット」や術後鎮痛管理表が円滑に使えるかどうかのテストも必要です。さらに、河北総合病院では、IT課の協力で、麻酔科医のための回診リストも作ることができました。(詳細に関しては、直接トマシュにご連絡ください。)



外科系医師・薬剤師について意見交換・システムの調節
リンクナース・外科医・麻酔科医・薬剤師が作成した「セット」は使用される薬剤・慣れた投与方法などが反映されているはずです。しかし、多様な臨床場面においては、患者の背景が変わると「セット」内容も調整が必要になる場合があります。その時の対応・カルテ上のオーダー変更方法に関しては、各部門同士で合意しておくことが重要です。ですから、あらゆる場面に応じた対応ついて、あらかじめ決めておく必要があります。そのため「セット」を作成をしながら、または作成した後に一度各部門の代表と話し合う機会を持ちます。そこで、それぞれの問題に対する共通の対応を生み出すのです。(例:術前のがん性疼痛に対して麻薬を投与されている患者の術後鎮痛管理、アセトアミノフェンにより肝機能増悪した場合など)。





導入
上記の条件が満たされたら、導入予定日を決定し、病院上層部(院長・師長・各部門部長など)の了承の上、同時に一斉導入します。段階的に、病棟毎で導入することも考えられますが、同時に一斉導入する方が効率が良く、混乱も 少ないです。同時に一斉導入しない場合、各病棟の体制が違ってくるので、関わる部門(薬剤部・外科・麻酔科)がそれを把握する必要があり、負担が増します。混乱が事故の原因にもなりかねないので、十分な準備をへて、同時にシステムを導入するのが望ましいと思います。
フォロー・教育レベル維持
導入後、1-2ヶ月間は、できる限りシステム導入担当の先生(麻酔科医・外科医)がリンクナースと頻繁に連絡をとりながら、起きた問題点について相談し、対応を微調整するようにします。経験上、1ヶ月ぐらい過ぎると、みんなの協力でほぼ各事項の調整も終わりそれなりに動くようになります。なぜなら、最初からみんなで作ったシステムなので、その内容がよくわかっており、自分の仕事の流れに合った負担の少ない安全な対応に自分で直していくようになるからです。未知のシステムを導入するのではないので、日々の現場に一番ふさわしい円滑なやり方を作ることができます。2ヶ月たつと、システムが定着します。関わっていた人達の達成感も増します。
その後は、システムの微調整をそれぞれの術後鎮痛管理に応じて行なっていくことになります。管理の質を上げるために、病棟で定期的な難しい症例に関する検討会や勉強会を行います。病棟の新人看護師・医師がワークショップのYouTube動画を見たり、アルゴリズムを理解することで、システムは維持されていきます。

